東京高等裁判所 昭和36年(く)113号 決定 1961年12月11日
少年 Y
主文
本件各抗告を棄却する。
理由
抗告人○田○夫の本件抗告の趣意は、原審は、少年に対する本件窃盗保護事件について、昭和三十六年十月十六日少年を中等少年院に送致する旨の決定をしたが、同抗告人は、少年の叔父として、両親が既に死亡した少年の本件非行事実について深くその責任を感じ、将来再びかかる非行のないように万全の措置を講ずると共に、少年を同抗告人の許に引き取りその補導に全力を尽したいので、原決定の取消を求めるため本件抗告に及んだというのであり、抗告人Yの本件抗告の趣意は、同抗告人に対する前記保護事件に関し、同抗告人が原審において同抗告人の叔父に身柄引受人となつて貰うため、その身柄を青森県の少年鑑別所に移すと共に、同人に対し審判期日を通知するよう調査官に要望したのにかかわらず、右要望を容れずに、原審が本件保護処分の決定をしたことは、決定に影響を及ぼす法令違反を犯したものであり、また、本件各非行事実は、共犯者Tの強要によつて已むを得ず行つたものであつて、同抗告人の本心によるものでないのにかかわらず同抗告人を本件各非行事実の共犯者と認めた原決定には重大な事実誤認があるので、原決定の取消を求めるため本件抗告に及んだというのである。
よつて、先ず抗告人○田○夫の本件抗告の適否につき按するに、少年法第三十二条本文によれば、保護処分の決定に対し抗告をすることが許されている者は、少年とその法定代理人又は附添人に限るところ・記録添付の昭和三十六年十月二十六日発信、京都府○○郡○○町役場宛の電文案及び同月二十七日横浜家庭裁判所岡江調査官受信の電報に徴すれば、少年に後見人のないことが認められるから、同抗告人は少年の叔父であるが、その法定代理人の身分を有する者でないことが窺がわれ、しかも同抗告人が少年の附添人でないことは、一件記録上明らかであるから、結局、同抗告人は、本件抗告を適法になす資格を有しない者であるといわなければならない。さすれば同抗告人の本件抗告は、不適法であるから、進んで抗告理由の有無について判断するまでもなく、これを棄却すべきものである。
次に抗告人Yの本件抗告について、少年調査記録を含む一件記録を調査するに、所論のように同抗告人が原審の調査官に、身柄の移鑑その他の要望をしたことを認めるに足る形跡はなく、また同抗告人の本件非行事実が共犯者Tの強請によることを認めるに足る証拠もないのである。寧ろ、同抗告人の司法警察員に対する昭和三十六年七月三十一日付、同年九月二十一日付及び同月二十五日付各供述調書並びにTの司法警察員に対する同年八月三日付及び同年九月二十六日付各供述調書によれば、本件各非行事実は同抗告人と右T両名の共謀によるものであることが明認されるのである。さすれば、所論の法令違反の主張はその前提を欠くこととなつて、採つてもつて原決定を取り消す理由とはなし得ないし、また原決定に所論のような重大な事実誤認のあることが認められないことは前述のとおりであるから、同抗告人の本件抗告は、すべて理由のないものとして棄却すべきものとする。
よつて少年法第三十三条第一項に則り、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 小林健治 判事 浜田潔夫 判事 松本勝夫)